特定調停
債務整理の1つ、特定調停について解説します。
特定調停とは
特定調停とは、裁判所の調停委員に間に入ってもらい、金融会社と交渉する手続きです。
交渉の内容としては、月々に返済する金額を減らしてもらったり、将来的に支払う金利分を免除してもらったりということが挙げられます。
ただ、相手方の金融会社が調停に応じてくれないと成立しないため、手続きをしたからといって必ず債務が軽くなるとは限りません。
特定調停を行うほど金銭状態が悪化している場合、複数社から借り入れを行っているケースが多いです。特定調停では1社ごとに交渉を行わなければならないため、借り入れ件数が多ければ多いほど手続きは大変になります。
また、調停委員の方が間に入ってくれるといっても、あくまで交渉を行うのは本人です。そのため、弁護士に依頼するのと同じように何もかもお任せできるわけではありません。 それから、自己破産とは違い、借金が免除になるわけではないので注意しておきましょう。
裁判の判決と同じ効果が得られる
特定調停で債権者の合意が得られた場合は裁判所が「調停調書」という書面を作成してくれるのですが、この書類には裁判の判決を受けたのと同じ効果があります。 調停調書には借金の減額や返済に関することが記載されているのですが、ここに書かれていることは必ず守らなければなりません。
例えば、返済に関するルールを守れなかった場合、債権者による給料差し押さえなども可能となっているのです。 また、借り入れがあるすべての人が特定調停を利用できるわけではありません。特定調停を選択できるのは、現在はまだ支払不能の状態ではないものの、このまま返済を続けるといずれ行き詰まる可能性の高い方です。
つまり、生活は余裕だけれど返すのが嫌だから減額してほしいなどの要望は通りません。 また、特定調停で話し合いをしたからといってほとんどの場合は借金がなくなるわけではないので引き続き返済をしていく必要があります。そのため、収入がある方でなければ選択できません。
特定調停のメリット
特定調停のメリットとして真っ先に挙げられるのは、手続きが簡単にできるということです。弁護士を必要とする手続きではないため、費用が抑えられますし、たとえ手に職がなくても、申し立てをすることができます。ただ、弁護士を通さないということはすべて自分で行わなければならないということ。
例えば、そろえなければならない書類などもたくさんあるので、それらを用意するために市役所に出向いたり、情報を整理するために仕事を休まなければならないこともあるでしょう。 実際に調停を行う際には1社あたり30分以上かかるのが一般的で、数時間かかるケースも少なくありません。
話し合いは裁判所で行うことになるのですが、裁判所は土日祝祭日はやっていないため、働いている方は平日に仕事の休みを取る必要もあります。
特定調停を選択する最大のメリットともいえるのが、自分で整理する借金を選択できることにあるでしょう。例えば、5社から借金をしており、そのうちの1社のみ連帯保証人をつけているようなケースでは連帯保証人がついていない4社のみを選択して整理することが可能です。
連帯保証人に迷惑がかかるという理由で債務整理を避けている方も多いのですが、特定調停が選択できれば連帯保証人を巻き込むことなく借金の整理が可能となっています。
特定調停のデメリット
特定調停の申し立てを行うと、調停を行っている間は借金の返済をストップすることができます。しかし、弁護士に依頼をする債務整理の場合は弁護士に依頼をすればすぐに取り立てがストップするのに対し、特定調停の場合は裁判所に申し立てをしてからでなければ取り立ては止みません。
申し立てを行うためにはいろいろとそろえなければならない書類もあるため、取り立てがストップするまでにはそれなりの時間がかかってしまうことを覚悟しておきましょう。
特定調停では調停委員の方が間に入ってくれるのですが、自分の代わりに積極的に交渉をしてくれるわけではありません。
そのため、調停委員のやる気次第では特定調停がうまくいかないケースもあるのです。 自分で調停委員を指定することはできないため、やる気のない人に当たってしまうと失敗するリスクもあります。調停委員の力を十分に借りられなかったときのためにも自分でしっかり交渉するための知識を身に付けておかなければなりません。
弁護士が間に入る手続きと違い、時間がかかるのがデメリットです。整理する借金が多くなればなるほど時間もかかるので、それほどたくさんの会社から借り入れを行っていない方などに向いている方法だといえるでしょう。一方、特定調停のデメリットは、金融会社のブラックリストに載ってしまうことです。
具体的には、新たな借り入れやクレジットカードの新規契約が、5年間できなくなってしまうというペナルティがあります。
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特定調停の手続きの流れ
続いて、特定調停の手続きの流れを見ていきましょう。
- 必要書類の作成…特定調停は、基本的にすべての対応を本人が行います。まずは申立書や経済状況を示す明細など、必要書類を準備します。
- 特定調停の申立…必要書類の準備が済んだら、相手方の金融会社の所在地にある簡易裁判所で申立を行います。
- 事件受付票の交付…裁判所に書類を提出し、事件受付票という書類を交付してもらいます。交付後2~3日で、裁判所から債権者へ必要書類の提出を求める通知が送られます。相手方にこの書類が届くと、その時点で法律上取り立てが禁止されます。
- 調停委員の選任…裁判所が、案件を担当する調停委員を選任します。
- 第1回調停期日(申立人の事情聴取)…調停委員が、申立人に必要事項の確認を行い、どういった対応をするかを相談します。
- 第2回調停期日(債権者との調停)…調停委員が債権者と話し合いを行います。申立人も裁判所に出廷しますが、顔を合わせることがないよう、それぞれ別室で調停委員が対応してくれます。
- 調停調書の作成…調停により、支払い額や支払い回数などの合意が取れたら、その内容で調書を作成します。
- 支払い開始…調停調書に記載されている通りに支払いを行っていきます。もし、支払いが滞ってしまうと、調停調書の効力で強制執行されてしまう恐れがあります。くれぐれも遅れのないよう気を付ける必要があります。
特定調停の必要書類
特定調停をする上で必要になる書類がいくつかあります。例えば、東京簡易裁判所の例を見てみましょう。
個人が申立てる場合を前提とすると、次のような書類が必要です。
- 特定調停申立書…正本・副本として2部必要です。相手方が複数ある場合、相手方ごとに作成します。
- 特定債務者であることを明らかにする資料…財産の状況を示すべき明細書も用意します。
- 関係権利者一覧表…債権者氏名又は名称、債務の内容をなどについてまとめます。
- 申立手数料…次の項目で詳しくご紹介します。
- 予納郵便切手…同じく次の項目で詳しくご紹介します。
- 資格証明書…提出を省略できる場合もあります。
それから、申立人である自身に関する書類も必要です。自らの身分を証明するための書類として、住民票の写しを用意しましょう。住民票は特に期限が定められていませんが、申立てから2ヶ月以内のものを使うのが理想的です。
また、相手との契約者を添付する必要があるのですが、ケースによっては契約書がない場合もありますよね。この場合はやりとりについて証明する必要が出てくるため、領収書や請求書を用意しましょう。万が一これもないということであれば、相手方の取引の間で利用している銀行等の通帳の写しの提出を求められることもあります。
申立ての対象となる相手が貸金業者等だった場合、こちらは裁判所の方で取引の履歴の提出を求める形になるため、資料がなかったとしても大きな問題にはならないでしょう。
他にも、生活に関する資料として、給与明細などが必要です。こちらは直前3ヶ月分程度を用意する形になります。詳細については各裁判所の方に確認してみてください。
それから、資産に関する書類が必要なので用意しておきましょう。例えば、不動産がある場合は不動産の登記簿謄本や、固定資産評価証明書、不動産屋に依頼して出してもらう査定書などが必要になってきます。
預貯金がある場合は通帳のコピーが必要ですし、自動車・バイクがある場合も査定書を提出する形になりますが、自分の場合はなにを用意すれば良いのかは裁判所に直接確認した方がわかりやすいです。
特定調停に掛かる費用
申立書に貼る収入印紙代のほか、裁判所が書類を送るための郵便切手代なども負担しなければなりません。ただ、手続きを自分で行うこともあり、司法書士や弁護士に依頼した場合に比べると出費を抑えることができるでしょう。
東京簡易裁判所に特定調停を申し立てる場合にかかる費用を確認してみると、個人が申し立てをする場合は申立手数料として相手方1人に対して500円分の収入印紙が必要になります。つまり、3社に対して申し立てをする場合は1,500円分の収入印紙が必要になるということですね。この時、500円分の収入印紙を3枚という形で用意します。
それから、手続費用として相手方1人につき、420円分の切手が必要です。これは、82円切手を5枚、10円切手1枚という形で用意しましょう。予納郵便切手となるわけですが、こちらについては手続きを進めていく中で追加で提出を求められる可能性があるとのことです。
つまり、債権者1社あたりにかかる費用は1,000円程度ということ。お金がない中で債務整理をしようと思った場合、特定調停ならば金銭的な意味でも選択できる可能性が高いでしょう。
特定調停に掛かる期間
具体的にどれくらいの期間が必要になるのか?についてはケースによって異なります。短くて3ヶ月、長くても半年以内を一つの目安にしておきましょう。 話し合いがうまくまとまらず、長引いてしまった場合には半年程度の期間がかかることもあるのです。
また、特定調停は裁判所で行うものなので、裁判所で取り扱わなければならない案件が混み合っている場合、自分の特定調停に取りかかってもらえるのがかなり先になってしまう可能性もあります。
特に都市部では特定調停を取り扱っている簡易裁判所がかなり混み合っていて時間がかかる可能性もありますが、選択できる簡易裁判所は相手方である債務者の住所地を管轄している簡易裁判所でなければならないと定められているため、空いている簡易裁判所で手続きを進めることはできません。
更に言えば、特定調停が長引いたからといって必ずしも決着がつくわけではないのです。折り合いがつかなければ調停不成立という形になって債務整理をやり直さなければなりません。
このあたりはよく押さえておきたいですね。
特定調停の参考例
ここでは特定調停のよくある参考例を記載します。
類似のケースであっても、必ずしも同じ結果が得られるという確約はありません。あくまで参考としてご確認ください。
ギャンブルで作った借金を特定調停で債務整理
昔からギャンブルが好きでどうしてもやめられなかったというケース。収入も多かったのでその範囲内で楽しんでいたのですが、大きなけがをしてしまい、仕事を続けられないため退職することに。
他の仕事に就きましたが収入は安定しません。ですが、ギャンブルをやめることができず借金が膨らんでしまいました。
そこで選択したのが借金の理由は問われない特定調停です。その結果、250万円あった借金は80万円になり、利息なしで3年間で完済していくことになりました。これは過払い分が多かったことも関係している場合です。毎月無理のない範囲での返済となりました。
会社倒産後アルバイト生活を続ける中での借金
勤めていた会社が倒産してしまい、アルバイトで生計を立てていましたが、借り入れをしながらなんとか生活できる状態。貯金が底をついてからは借入額も膨らんでしまったケース。
特定調停の結果、将来利息を大幅にカットして返済ができるようになり、生活はかなり楽になると思われます。
準備に時間がかかってしまう
友人の連帯保証人になっていたが、友人が借金を返せなくなってしまい自己破産。代わりに返済をしていましたが、返済が難しくなってしまい任意整理を検討するというケース。
額が大きかったこともあり、長期の返済のほうが向いているとのことで特定調停を選択することになります。
特定調停の基礎知識
債権者を選んで特定調停できますか?
特定調停を行う場合は、自己破産や個人再生のように、全ての債権者を相手として特定調停を申し立てる必要はありません。保証人が付いている借金や自動車のローンなどを除き、一部の債権者を選び、その相手に対してのみ特定調停を申し立てることも可能です。
また、多くの債権者が借金整理案に同意している中で、同意をしない一部の貸主に対してのみ特定調停を申し立てることも効果的です。
公的機関を相手に特定調停はできますか?
税金や国民年金など、公的な支払いに関しては特定調停の対象とは認められません。水道やガス、電気などのインフラに関する料金も同様の扱いとなります。名古屋市ではあまりに長期にわたって税金などを滞納し、支払う意志を見せないとなると、所有している財産の差押えをされてしまうなどの処置を執られてしまうことがあります。
税金などに関しては市役所に相談すれば納税の猶予が設けられることがあるので、支払いが難しいときには速やかに相談するようにしてください。
特定調停が成立しないこともあるのですか?
特定調停を申し立てた相手が調停に応じず、裁判所に来なかったり、話し合いがまとまらなかったりする場合は、特定調停が成立しません。ただし、調停以前のように違法な高金利での返済を求められることはなくなります。
特定調停が成立しなかった場合、利息を付けたうえで、今後の支払いを進めていくことになります。ただ、一度利息制限法を適用するため、引き直された利息が元の高金利に戻ってしまうことはありません。また民事調停法17条「調停に代わる決定」によって、調停が成立したときとほぼ同様の結果が得られることもあります。
参考:特定調停申立てについて_裁判所 (https://www.courts.go.jp/nagoya/saiban/tetuzuki/kansai_tokutetyote/index.html)
参考:民事調停法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=326AC1000000222_20150801_000000000000000)
「特定調停」と「任意整理」の違い
特定調停は、裁判所が仲裁役となって債務者と債権者の和解成立を支援する公的な手続きです。一方で任意整理は、弁護士が債務者の代理人となって債権者との和解成立を目指す私的な手続きとなります。
二つの違いとして、まず取り立ての状況の変化があります。任意整理の場合は、弁護士に依頼をすればすぐに取り立てが止まりますが、特定調停であれば、裁判所に対して正式に申し立てをしない限りは取り立てが止まりません。申し立てにはさまざまな手続きや書類が必要になるため、ある程度の時間がかかることもあります。また、任意整理であれば弁護士が代理人となって全ての手続きや交渉を行ってくれますが、特定調停であれば自身で債権者と交渉をする必要があり、時間や労力がかかります。そして、特定調停の場合は、過払い金の払い戻しは行われません。
ただ、自身で動く分、費用面では弁護士に依頼するケースと比べて非常に安価で抑えられます。過払い金の有無や資金面などを考え、メリットがあるのであれば特定調停を利用するといいでしょう。
弁護士に依頼をしよう
特定調停をすることによって生活が好転したり、それまで苦しんでいた大変な借金生活から解放された人がたくさんいます。ですが、その一方で特定調停に挑戦したもののうまくいかなかったり、難しくて苦戦してしまったという方も。
確かに個人でもできる債務整理の方法ではありますが、簡単だとは思わないほうがいいです。用意しなければならない書類が多々あるだけでなく、自分にとって有利になるように交渉するためにも専門的な知識が必要になってきます。
成功率を高めるためにも、弁護士に相談をしてみてはどうでしょうか。弁護士に依頼をしても自身で裁判所に足を運ぶ必要はありますが、弁護士のアドバイスを受けていたからこそ理想的な結果で落ち着けることができた方も少なくありません。
確かに費用はかかりますが、アドバイスを受けたことによって有利に交渉できたり、用意しなければならない書類で悩むこともなくスムーズに手続きを済ませられる可能性が高いです。短期間で決着をつけたいと思っている方も弁護士に相談してみてくださいね。